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Theoretical Astrophysics Group, Yamagata University

研究紹介

銀河団衝突のコンピューターシミュレーション

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宇宙でおきている現象を地球上の実験室で再現するのは非常に困難(というか、ほとんど不可能)です。 その理由はいくつかあげられます。例えば、扱う現象の長さ、質量、時間等の尺度が全然違います。 また、地球上の実験室では再現不可能な極限状態(超高温、超高圧、強重力、強磁場、超希薄)もしばしばあらわれます。 そこで、コンピューター上でのシミュレーション(模擬実験)の出番となります。現在では理論、観測に続く第三の柱として コンピューターシミュレーションは天文学における重要な研究手法となっています。

当研究室では主に銀河団の衝突現象に関連したN体や流体のシミュレーションをおこなっています。 また、シミュレーション手法自体(流体計算、電磁流体計算、N体計算、並列化など)の研究もおこなっています。

図はオフセンターな銀河団衝突のN体+流体シミュレーションの結果(滝沢による計算)で、等高線がガス密度、カラーがガス温度を示しています。 衝突の結果、衝撃波や接触不連続面、ケルビン・ヘルムホルツ不安定性による渦状の構造などが生じているのがみてとれます。


    

連星中性子星合体

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連星中性子星合体とは、連星系をなす2つの中性子星が合体するという非常に高エネルギーな天体現象です。中性子星の合体時には重力波が放出され、 合体時に放出された高温の物質が光るため、電磁波もまた放射されます。2017年8月には、米国のLIGOおよび欧州のVIRGOという重力波検出器による 共同研究グループによって、世界で初めてこの中性子星合体からの重力波が検出され、同時に多波長での電磁波観測も行われました。 重力波・電磁波・ニュートリノなど複数の観測を組み合わせて天体現象をより深く理解する「マルチメッセンジャー天文学」の幕開けとなりました。

中性子星合体の物理を明らかにするためには、電磁波放射のメカニズムを理解することが重要となり、それには流体や輻射輸送のシミュレーションが 力を発揮します。当研究室では、特に中性子星合体からの初期の電磁波放射がどのように見えるのかについて興味をもって研究を行っています。 図は中性子星合体直後からの流速分布の時間変化を表しており、合体直後に生じた衝撃波が中性子星表面に向かいながら加速されていく様子を 再現しています(石井による流体シミュレーションの結果)。中性子星合体はまだ観測例が少ないですが、重力波検出技術の向上に伴い今後たくさん 発見されていくはずです。当研究室で行っているような数値シミュレーションの結果と将来的に得られる観測データを比較することにより、 より詳細に中性子星合体の物理を理解していくことを目指しています。


ガンマ線バースト

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ガンマ線バーストとは、短いタイムスケールで大量のガンマ線を放射する現象であり、宇宙でもっとも明るい高エネルギー天体現象と言われています。 ガンマ線の放射時間によってショートガンマ線バーストとロングガンマ線バーストに分けられ、それらの起源はそれぞれ中性子星合体および超新星爆発 などの天体現象に関連すると考えられています。ガンマ線バーストでは理論的解釈の難しい観測的特徴が得られており、発見から50年以上経つ現在でも その詳細な生成メカニズムは明らかにされていません。

当研究室では、ガンマ線バーストがどのように生成されるのか明らかにするために、その放射メカニズムに焦点をあて輻射輸送シミュレーションを用いた 研究を行っています。図はいくつかのモデルを用いて計算されたガンマ線バーストからの放射スペクトルを表しており、逆コンプトン散乱による 高エネルギー光子の増幅が見られています(石井による輻射輸送シミュレーションの結果)。ガンマ線バースト放射メカニズムを明らかにするためには、 光速に極めて近い流速や非等方性の強い輻射場を考慮する必要があり、計算コードを開発する際には様々な技術的工夫が必要となります。当研究室では、 これらの技術的課題に一つ一つ取り組みながら、ガンマ線バースト放射メカニズムの解明を目指しています。


銀河団のX線観測

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幸いにも天文学・宇宙物理学の分野では理論と観測の垣根は比較的低く、両者で共通の問題意識をもって研究が行われています。 したがって理論だ観測だと殻に閉じこもっている必要は必ずしもありません。当研究室でも国内外の様々な研究者 (観測、理論、シミュレーション、実験)と協力して主に銀河団の多波長観測(X線、電波、可視光など)を行っています。

宇宙では様々な天体で1000万度から10億度程度までの高温ガスが存在します(太陽コロナ、超新星残骸、銀河の高温ガス成分、銀河団ガスなど)。 そのような高温ガスはX線で輝くので、X線観測が重要な研究手段です。図は1RXS J0603.3+4214銀河団のX線(カラー)と電波(等高線)のイメージ です。X線は高温ガスを、電波は高エネルギー宇宙線電子と磁場の存在を示しています。磁場や高エネルギー宇宙線の存在は、高温ガスの激しい 運動と関連があると思われています(大学院生板花さんの修士論文より)。      


宇宙磁場の電波観測

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宇宙からは様々な放射過程をへて電波が発生しますが、当研究室で主に扱っているのはシンクロトロン放射によるセンチ波からメーター波の 電波観測です。光速に近いスピードの高エネルギー電子が磁場に巻き付いて運動するときにシンクロトロン放射とよばれる偏光した電波が発せられます。 これを調べることで高エネルギー電子や磁場についての情報を得ることができます。また、ファラデー回転と呼ばれる偏光面の回転現象を詳しく調 べることで、電波源付近やその手前にある高温ガスや磁場についての情報を得ることができます。宇宙では磁場は様々な役割を果たしていると 考えられていますが、その割には直接観測が難しいため、上記のような観測手法は重要な手段となっています。

     

図はAbell 2199銀河団中心に位置する電波銀河 NGC 6166 で、等高線が電波強度を、直線は偏光方向を示しています。これを詳しく解析することで NGC 6166自身の情報だけでなく、所属する銀河団の磁場についての情報も得ることができます(大学院生高橋君の修士論文より)。

山形大学理学部宇宙理論研究室

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